(3)「性分化疾患(DSDs)」という専門用語はどのような役に立つのですか?

 2006年に「性分化疾患(DSDs)」という包括用語が用いられたコンセンサス会議以前は、臨床に当たるお医者さんは、「偽性半陰陽」や「真性半陰陽」「インターセックス」などの古い包括用語を使っていました。患者さんは、これらの古い用語によって、社会的偏見や誤解を与えられてしまい、それ故に自分の体の状態を話すことができず、不必要な孤立を強いられ、じっとがまんし続けなくてはならない状況に追いやられることがありました。そしてお医者さんの中では、「半陰陽」や「インターセックス」といったラベリングが、患者さん本人や家族が不必要な後ろめたさを感じるのではないかということを心配して、診断名を告げないということがありました。

 コンセンサス会議に集まったお医者さんたちが「性分化疾患(DSDs)」という新しい用語を用いることにしたのは、ひとつには患者さんを傷つけるこのような状況を脱しようとするということと、またひとつには、「半陰陽」という概念に基づいた様々な医学用語の定義が、医学の進歩により、完全に時代遅れになったということがあります。お医者さんたちはまた、「インターセックス」という用語も、実際的な意味で包括用語には適さないと認めました。それはお医者さんたちが、どういう体の状態を「インターセックス」と見なすのか合意ができなかったからです。

 もうひとつの問題は、これら古い用語が、なにか特定の(性自認などの)タイプのアイデンティティ(「彼女は偽性半陰陽だ」とか「彼はインターセックスだ」など)を示していると思われる状況を作ってしまうことです。事実、このような体の状態は、患者さんのアイデンティティの重要な面を形成していないことがほとんどです。古い用語と比べて、性分化疾患(DSDs)という用語は、ある人が持っている体の状態(a condition that a person has)を表すもので、その人が何者であるか(who a person is)ということを表すものにはならないようになっています。新しい用語はまず何よりも、その人のアイデンティティを尊重しようということが模索されているのです。

 今日、性分化疾患という用語は、「染色体、生殖腺、もしくは解剖学的に性の発達が先天的に非定型的である状態」を示すという、明確な医学的合意がなされています。専門用語に関するこのような合意は、様々な性分化疾患の状態について、患者さんや家族と医療スタッフが協力して対応し、進歩的で、患者中心の医療を進めていくのに役立っているのです。

 「性分化疾患(DSDs)」という用語は、もしそういう用語が、そういう状態を持つ人の存在の価値をそうでない人より低くするものになるのだと信じる人には、あまりいい用語ではないように思われるかもしれません。どうか思い出していただきたいのは、性分化疾患(DSDs)という用語は、その人が持って生まれた体の状態を指すもので、彼もしくは彼女が人として何者であるかということを意味するものではないということです。くり返しますが、性分化疾患(DSDs)は、身体の性の発達に関する様々なバリエーションを表す総称に過ぎないのです。

 「性分化疾患(DSDs)」という用語はまた、この用語が何か特定の治療指針を意味するものだと勘違いしてしまっている人にも、いい用語ではないように思われるかもしれません。患者さんが自分の状況をより良くするために必要とする社会的サポートを得て、(もし必要があるのなら)どんな治療をするのか決定するために、患者さんと医療関係者が、個々に応じた状態や状況を一緒に考えていかねばなりません。性分化疾患(DSDs)は一般的な診断名に過ぎず、何か特定の治療プランを意味するものではないのです。