(6)性分化疾患に対する「標準的な医療」は、主にどのようなところが変化してきているのですか?

 ここ10年ほどの間、性分化疾患のケアについては数多くの大きな変化が訪れています。特に大きいのは、お医者さんたちが、性分化疾患を持つ人とその家族の人生や生活を、より良いものにしていくことに同調されはじめるようになったということでしょう。つまり、性器のなどの身体の外見や、性自認を矯正することに終始するのではなく、性分化疾患を持つ人の生活や人生をより良いものとしていく可能性を高めていく重要性を考慮されるようになってきたということです。患者さんやその家族に疾患の内容をちゃんと伝え、生活や人生をサポートするカウンセリングの機会を提供する訓練を特別に受けた専門家、心理学者やソーシャルワーカー、遺伝カウンセラーなどを積極的に活用するチーム医療が始まろうとしています。

 現在では、多くの医療関係者が、性別同一性は出生前の発達と出生後の発達、つまり生得的なものと生育的なもの両方ともを含んだ複雑な発達プロセスによって成立するものだということを納得しています。性分化疾患を持つ子どもの性別判定をする時には、出生前の要因も重視されるようになってきているのです。(ですので、マイクロペニスを持つ男の子が自動的に無理やり女の子にされてしまうということはもうありません。マイクロペニスや尿道下裂を持つXY染色体の男の子は、昔は必要な検査をすることもほとんどなく、ペニスの長さで男の子か女の子かが決められてしまい、ペニスが切除されるなどし、後に大変な事態になってしまうことがあったのです)。性別判定には外科手術が必要だという誤った認識も正されつつあります。(たとえば「シカゴコンセンサス」では、クリトリスが少し大きいという程度の状態で生まれた女の子には、神経節に害を及ぼすかもしれない危険性があり、何度もくり返さねばならないクリトリス縮小手術は必要ではないとしています)。

 ある種の体の状態については、より良い結果を出すためと、患者さん本人が自分で手術を受けるかどうか決められるよう、外科手術は思春期まで待つようになりつつもあります。たとえば昔、まだ2,3歳にも満たない女の子にヴァギナ形成術が自動的に行われてきましたが ―その後アフターケアとして、ご両親はまだ小さな女の子にヴァギナ拡張器を定期的に入れなくてはなりませんでした― 、今ではほとんどの外科医が、ヴァギナ形成術はもっと大きくなってからの方が、一般的に最も良い結果を生むことに同意しています。

 また一方過去には、ある種の性分化疾患を持った人やその家族(特にY染色体を持つ女性や女の子)に診断についての情報を隠しておこうとするお医者さんもいましたが、現在では本人や家族は事実を知る権利があると、ほとんどのお医者さんが考えています。事実の情報を隠しておくことで、そうして守ろうとした患者さん自身に、疑念と恥ずかしさの感情を与えてしまうようなことが多かったため、正直に事実を伝えたほうが良いという認識になりつつあります。

 欧米では、様々な性分化疾患の、体の状態や状況に応じた医療協働での正規のサポートグループがたくさんできつつあり、多くのお医者さんたちも、そういった正規のグループとともに、本人や家族のケアに当たるようになってきています。同じような状態や状況にある人々とのピアサポートは、病院でのケアに匹敵するような心理的感情的安心感を与えることが認識されつつあるからです。日本ではまだ、質の高いサポートグループは、ターナー症候群や先天性副腎皮質過形成(CAH)、アンドロゲン不応症(AIS)などを対象にしたものしかありませんが、医療との協働の上での質の高いサポートグループ・患者会が出来上がっていくことを望みます。